とみひろ里山養蚕所
かつて日本のシルクは、世界一の生産量を誇り、 中でも山形県は近代化以前から養蚕が盛んに行われ、 伝統として受け継がれてきました。
しかし現代、日本の養蚕業は衰退の一途を辿り 国内に出回る絹の 99% 以上が海外製です。 例に漏れず、昭和の山形を支えてきた何万軒もの養蚕農家は 今や県内で 5 軒を切り、残された農家も高齢化が進んでいます。
「安土桃山時代に創業した山形の呉服屋として、 日本の伝統的な着物文化を守り、育てていかなければならない」 そんな思いから、とみひろは白鷹町にご縁をいただき、
2016 年、50 年ぶりの新規養蚕農家として「とみひろ里山養蚕所」を設立しました。 桑畑の開墾と整備というゼロからスタートした、私たちの養蚕プロジェクトは、地元や養蚕関係者の多くの方々のご協力を得て、今日では毎年純白の美しい繭を育てられるようになりました。
ただ、まだまだ飼育生産数はごくわずかなため、お客様にお披露目できる機会もそう多くはありませんが、養蚕文化継承と、当社だからこそできる「養蚕〜草木染め〜織り〜お仕立て」という自社一貫のモノづくりを目指し、社員一同励んでいます。
2018 年、初めてのとみひろ完全オリジナルの純山形産の着物が完成いたしました。
とみひろ里山養蚕所について
「とみひろ里山養蚕所」は、山形県白鷹町・十王の 里山の土地を開墾し、桑(くわ)を植樹して誕生しました。
約 2,500 坪の広々とした「桑園(そうえん)」、お蚕さんを飼育するための「飼育室」、繭をつくるための「上蔟室(じょうぞくしつ)」からなり 1 年に 2 回、6 月と 9 月に養蚕を行っています。
お蚕さんを育てる場所ですから、強い農薬は使えません。 そのためか、緑豊かな桑園の中には多くの生きものたちが 豊かな生態系を築いています。 キジやウグイスに虫の声、アオガエルの合唱がそこここで響き いつも大変にぎやか。桑の実目当てのタヌキやクマ、桑葉を食べるカモシカも訪れます。 桑の下で雨宿りするノウサギとばったりしたことも。
桑園から一望できる白鷹の町並みと、朝日連峰の雄大な山景が自慢。 山からやってくる雲ともやは、予報よりも確実に天気の変化を教えてくれます。
養蚕に携わる人たち
- 養蚕部 / 星 :虫をはじめ、生きものが大好きな養蚕専門のスタッフ。 今年で2年目、はりきって養蚕の様子をお伝えします。
- 染織工芸 :普段は自社工房「染織工芸」で、草木染め・機織りを専門に活躍。 養蚕にも関わり、できた絹糸を美しい布に織り上げます。
- ご指導・お手伝いの皆さま:まだまだ経験の浅い私たち。白鷹町の養蚕指導員の方や、地元の元養蚕農家さんに 教えていただいています。40 年近くお蚕さんを育ててきた農家さんの知恵に、学びの連続です。
養蚕とは
【養蚕(ようさん)】 ...カイコガ科の昆虫、蚕(かいこ)が吐き出して作る繭玉から絹糸を作る産業。 養蚕農家はエサとなる桑(くわ)を栽培し、蚕の幼虫を育てる。
とみひろの養蚕は多くの農家同様、専門の「稚蚕農家(ちさんのうか)」の元で 卵から孵化し、1 週間ほど育てられた幼虫を受け取るところから始まります。 飼育開始から繭の出荷までは、ほぼぴったり1ヶ月間。
そのため、6 月の「春蚕(はるさん)」、9 月の「晩秋蚕(ばんしゅうさん)」の 1 年 2 回(※)、つきっきりでお世話することになります。
(※...7~8 月の「初秋蚕」、11 月の「晩晩秋蚕」を加えて年 4 回行う農家もありました。 短いサイクルで繭をつくるために、安定的な収入を得ることができたのです。)
蚕は桑の葉だけをエサとして食べつづけ、4 回の脱皮を経て繭をつくります。 その性質は極めておとなしく、たとえエサがなくなったり 危機が迫ったりしても、歩いて逃げ出すことは決してありません。 毒やとげもなく、噛んだり刺すこともなく、擬態するための模様もない真っ白な身体は ひとたび外に出れば、すぐに捕食されてしまいます。 完全に野生に帰れなくなった地球で唯一の生物であり、人間のお世話無しには決して生きることができないのです。
そんなひ弱に思える蚕ですが、食べる量はすさまじく
とみひろで育てている 1 箱(※)の蚕は、最も多い時期で一日 200kg 以上もの桑を食べ尽くします。 桑園から桑を枝ごと伐り、軽トラック一杯に乗せて運ぶ仕事はなかなかの重労働。 その日の温度や湿度を管理し、蚕の様子に合わせながら 1 日 3 回桑を与え、糞や食べかすを掃除するのが主な仕事です。
(※...「箱」は蚕の頭数の単位。1 箱=25000 頭=繭およそ 50kg=着物 10 反分)
飼育開始時は爪の先程度の蚕ですが、約 3 週間で 8cm ほどの大きさに急成長し、糸を吐き始めます。 飼育室から「蔟(まぶし)」という専用の小部屋のような道具に移すと、 蚕は次々ときれいな楕円形の真っ白な繭をつくり、その中でサナギになります。
できあがった繭は収穫と選別を経て、製糸工場に依頼し、美しい生糸に仕立てられます。
ひとつの繭は一本の長い糸からできており、その長さはなんと 1000m。 蚕が羽化して繭から出てきてしまうと、穴のあいた繭は糸が切れてしまうため 繭は一気に高温乾燥するか煮てしまいます。 蚕が成虫のカイコガとなって、生きて繭を出ることはないのです。 人の手で育てられ、その短い一生をかけて美しい糸をくれる蚕たちに 親しみと敬意を込めて、「お蚕さん」「お蚕さま」と呼んでいます。
桑は土から生まれ、お蚕さんは桑から育ち、お蚕さんの身体の中から糸が生まれます。 大きく見ると、着物は土から生まれるのかもしれません。
山形の自然をいっぱいに取り込んで育てる、とみひろのお蚕さんたち。 その糸から生まれた着物は、身に纏えば里山の息吹がエネルギーをくれるような 特別な着物になってほしいと願いつつ、今年も養蚕に取り組んでいます。
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